まだ小学校にも上がっていなかった頃。
その時はまだ、自分がどれほど脆い物かわかっていなかった。
だから、そんな質問をしたんだと思う。

―――いつになったら病気が治るの?―――

友達と走り回ることも出来ず、時折襲ってくる発作に苦しむ日々。
いつまでそんな辛い事が続くのか………と。

『お前は、長くは生きられない』

俺の問いかけに、父親はそう答えた。

 

生まれつきの病。
普通の人間よりも、ずっと死が身近にある生。

 

長々と続いた父親の話は、半分も理解できなかった。
それでも、幼い俺が絶望するには充分だった。

(何をやっても、どうせ死ぬんだから)

そんな風に思った俺は、全てを諦める事にした。

 

夏夜(かや)に出会ったのは、小学校1年の秋のことだった。
発作で倒れ、運ばれた病院に彼女はいた。

『えっと………初めまして』

病室で目を覚ました俺に、そう挨拶をしてきた。
それが、始まり。

 

夏夜と俺は、本当に良く似ていた。
同じ病気、そして同じように先は長くない………。

ただ、ひとつだけ違っている事があった。

夏夜は、何も諦めていなかった。
明日やりたい事、いつかやってみたい事、そしてずっとずっと先の夢まで。
彼女は楽しそうに話した。

どうしてそんなに楽しそうに話せるのか?
そう聞いたことがある。

『頑張って頑張って、精一杯生きて………最後の瞬間が来たって諦めないで』
『そうしてれば、きっといい事があるってお父さんが言ってたから』

そう言って、夏夜は微笑む。
その言葉は、彼女の微笑と共に俺の心に深く刻み込まれた。

―――俺も、夏夜を見習って精一杯生きよう―――

そう思った。

 

俺が退院して少し経った頃、夏夜が転校生としてクラスにやって来た。
引っ越してきてすぐに入院してしまったのだと、笑顔で言っていた。

 

こうして、俺は夏夜と同じ場所、同じ時間を生きていく事になる。
………それは奇跡のようなものだったのかもしれない。