風。

波音。

蝉の声。

そして、何処までも澄んだ青い海と蒼い空。

夏だった。

その中で、私はひとり。
ただそこにいた。

 

ある日突然、人は伝説になった。

文字通り、伝説に出てくるようなものになった。

ある者は天使に。

ある者は鬼に。

ある者は妖精に。

 

共通しているのはただひとつ。

誰も………人を認識しないこと。

 

だから、私はひとりだった。

 

 

ゆっくりと、仰向けに倒れこむ。
私ももうすぐ、伝説になる。

だんだんと『人』が薄れていくのがわかる。

私は、何になるのだろ?
今までの『私』が消えた、私。

―――それでも、それは『私』なんだろうか―――

 

もう………何もわからない………

私が、消える―――

 

海辺から、黒い影が飛び立つ。

真っ黒な巨躯の、竜が………。

 

 

その日、世界は伝説に消えた。

 

 

 

 

“Legende Erde”geschlossen.